心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

ネガティブな自己認識4 <手放す方法>

「ネガティブな自己認識」を通して、自己認識が形成される仕組み、自己認識を察知する方法、自己認識を手放すのが難しい理由を解説いたしました。


今回は実際にネガティブな自己認識を手放す方法についてご案内いたします。

 

ネガティブな自己認識を手放していくには、まずその自己認識をはっきりと察知してあげることが必要です。「ネガティブな自己認識2」A子さん(40代・主婦)の事例でご案内したプロセスを応用して、まずは日常生活の中でふとしたときに出てくるネガティブな感情に気付き、その感情が出てくる原因となった思考を突き止めることから始めましょう。

 

以下、実際に手放すプロセスについて、今回もA子さんの事例を通してご説明いたします。

 

A子さんは、「自分は料理が下手だ」「自分は何をやってもダメだ」という誤った自己認識を持っていることに気が付きました。カウンセラーに相談したことで、自己認識が間違っていたこと、実際の自分はもっと優れているということを論理的には理解できたのですが、その後もA子さんは「やっぱり自分はダメな気がする」という感覚を払拭できずに苦しんでいました。この感覚が足かせとなって、次の一歩を踏み出せずにいることに強い苛立ちを感じていたのです。

 

頭では分かっているけれど、行動がついていかない。これは例えていうなら、自動車運転免許の筆記試験には合格したものの、実技試験にはまだ受かっていない、という段階です。特に何十年と共に生きてきた自己認識を手放そうとしているのですから、実技で合格するまでに時間がかかって当然です。この実技で合格するためのコツは、運転免許試験と同様、頭だけでなく心と身体を使って経験・理解することだと私は考えています。

 

「何をやってもダメだ」と自分のことを考えているとき、どんな気持ちになりますかと尋ねると、「暗くて深い穴に落ちていくような強い絶望感、孤独、悲しさを感じます」とA子さんは答えました。その気持ちを感じているとき、どのような身体感覚がありますかと質問すると、「肩がこわばるのと共に、胸がぎゅーっと痛くなります」と。A子さんは、ご自身の思考が実際に身体で感じる痛みとなって現れていることに気が付き、「こんなに痛んでいたんですね」と驚かれている様子でした。

 

自己否定の思考を感情及び身体感覚で認識する過程は、「絶望・孤独・悲しみ」といった辛い感情に深く向き合うことなので、多くの人が抵抗を感じるかもしれません。しかし、これは思考・感情・身体の強い結びつきを体感し、ご自身がどれほど思考に苦しめられているのかを理解してあげるために欠かせないプロセスです。

 

こんなに痛い思いをしなきゃならないほど、A子さんは本当にダメな人間なんでしょうか、と尋ねると、「こんな痛みは誰も経験する必要がないと思います」とA子さんは答えました。さらに、もし子供の頃のA子さんがこの胸の痛みを感じて苦しんでいたら、なんて声をかけてあげたいですか、と聞くと、「あなたは本当はとっても素晴らしいんだよ、って抱きしめてあげたい」と涙ぐまれました。

 

A子さんは胸に手を置き、ご自身に優しく語りかけてあげることで、ほっこりと暖かい気持ちを感じ始めるのと共に、肩のこわばり・胸の痛みが癒えていくことに気が付きました。A子さんの中で、頭だけでなく、心と身体でも「自分はダメな人間じゃない」「自分は素晴らしいんだ」ということが理解されたのでしょう。

 

ネガティブな自己認識を手放すプロセスのまとめ:

①ネガティブな自己認識を捉えたときの感情を察知する(ex. 絶望、孤独、悲しみ)

②その感情を感じているときの身体的反応を察知する(ex. 胸のしめつけ、肩のこわばり)

③このような感情・身体的反応で罰せられなければならないほど、本当に自分は悪いのかと自問する

④自分の心の痛みと向き合い、痛みを感じている自分自身に対して同情し、慈しみを感じる

 

思考・感情・身体のレベルでネガティブな自己認識を手放すことに一度成功しても、しばらくすると再びこの自己認識は日常生活のあらゆるところに干渉してくるものです。その度に察知し、手放すプロセスを何度も繰り返しましょう。反復練習を繰り返すことで、次第にネガティブな自己認識が小さくなり、その力が弱まっていくのを感じるはずです。

 

A子さんの事例は、説明のため簡略化してご紹介しています。実際は、②の段階で身体的感覚を捉えるのが難しかったり、③の段階で自分はこの痛みに値するほど悪い人間だと、ついつい誤った自己認識を肯定してしまうこともあるでしょう。ネガティブな自己認識が手強く、なかなか自己批判がやめられない場合は、カウンセラーに相談してみるのもよいでしょう。

 

長谷川由紀

 

yukihasegawa.org

 

☆おことわり☆

本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。