心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

“面倒くさい・後回しにしよう”の心理 5 <知恵をしぼって楽しくする>

前回『“面倒くさい・後回しにしよう”の心理 4』では、ワーストケースシナリオ(最悪のシナリオ)を具体的に思い浮かべ、その状況が実際に起こる可能性はどれくらいか、そして起きてしまったらどうなるか、ということを論理的に考えることによって恐怖を和らげる方法をご案内いたしました。恐怖にしっかりと向き合ったことで、漠然とした不安・絶望感が少しずつ小さくなっていくことでしょう。今回は最終ステップです。後回しにしてしまっていた作業をいかに楽しく進めるか、ご案内いたします。

 

再びBさん(30代・会社員・男性)の事例を使って考えましょう。Bさんはワーストケースシナリオを考えることで恐怖心や絶望感は和らいだものの、一度面倒くさいと思ってしまった勉強を再開するのはどうも腰が重いと感じていました。そんなときに使えるテクニックが、「自分にとって大切な人があなたと同じ状況にいたら、どうやって助けてあげるかを想像する」ことです。そこで、『“面倒くさい・後回しにしよう”の心理2 』でも登場していただいた、B さんが大変可愛がっているお嬢さんCちゃん(9歳)に再びお手伝いいただくことにしました。

 

Cちゃんが受験勉強が面倒で、やりたくない...どうしよう...と一人で悩んでいたら、Bさんはどうされますか?と尋ねると、
「まず面倒に思ってしまう気持ちを肯定してあげたい。嫌いな科目もあるだろうし、やりたくないと思うこともあるよね、って。その上で、でも勉強して行きたい学校に行けたら、こんなに楽しいことがあるよ、って励ましたい」とBさん。さらに、
「一緒に無理のない勉強のスケジュールを立てて、毎日どれだけ勉強したらどんなご褒美にするかを決め、少しでもワクワクできるようにしてあげたい。勉強で分からないことがあったら、僕が教えてあげるか、優しい家庭教師を雇って教えてもらうのもいいですね」とBさんは続けました。そして
「たとえ失敗したって大丈夫、そんなことで嫌いになったりしないし、失敗した後のことは一緒に考えよう、なんとかなるよ、ずっとそばにいるからね、と言ってあげたいです」とBさん。
とても優しい対応ですね。ご自身に対しては「どうしてこんなこともできないんだ」とついつい厳しくなってしまうBさんですが、可愛がっているCちゃんに置き換えて考えると大変優しく、親身になることができるようです。

 

Bさんのように、自分自身のこととなるとついつい厳しく、辛辣になりがち...という方も多いのではないでしょうか。そのような場合は、BさんがCちゃんに置き換えて考えたように、自分と同じ状況に大切な誰か(子供、パートナー、親、祖父母、友達、ペット...etc)が置かれていたら、どのように寄り添ってあげたいか、助けてあげたいかを想像してみるとよいでしょう。「自分に厳しくすることが成長につながる」という信念をお持ちの方もいらっしゃることと思いますが、心理学の観点からみると、自分に対して厳しく辛辣な発想を持つと脳が不安や恐怖を感じて緊張し、能率は落ちると考えられています。苦手な作業に取り掛かるとき、ついつい自分自身に対してイライラしがちの方は、大切な誰かを助けているつもりになって、優しくご自身に接するように心掛けてみてください。

 

次に、この対策を、次はBさんご自身に応用していただきました。

 

Bさんはまず、忙しい合間を縫っての受験勉強はただでさえ大変である上に恐怖心も加わって、後回しにしたくなるのも仕方がないことだとご自身の気持ちを肯定しました。それと同時に、キャンパスライフをイメージしたり、どのようなことを学びたいか、といったワクワクすることを考えました。
また、勉強が辛いときにはCちゃんを励ますようなつもりになって、自分に優しく接したり、不安に襲われたときにはCちゃんに語りかけるように、自分に優しい言葉をかけるようにしました。そして勉強のスケジュールを立て、ご褒美として趣味の読書やジョギング、お気に入りのレストランに行く、っといった予定も組み込ました。
さらに、留学を支援をしてくれる予備校の先生や留学経験者の先輩たちに相談をすることで、周囲からのサポートもより積極的に受けるようになりました。
こうすることで、Bさんの「面倒くさい」という気持ちは少しずつ対処しやすくなり、以前よりも楽に受験勉強に臨めるようになっていきました。

 

受験勉強それ自体が変わったわけではありませんし、後回しにしたくなる気持ちが完全になくなるわけではありません。しかし、アプローチ方法を変えることによってBさんは「面倒くさい」という気持ちに振り回されずに済むようになっていきました。このように、「面倒くさい」という心理の根底にある恐怖心や苦手意識は、大人になってから意識的にアプローチを変え、成功体験を積むことによって克服していくことができます。そうすることによって、「面倒くさい、後回しにしよう」という気持ちが沸き起こったときにも、その気持にコントロールされることが少なくなっていくと私は考えています。

 

さて、これまで恐怖が原因となって面倒くさいと感じてしまう事例を解説してきました。次回『“面倒くさい・後回しにしよう”の心理6』では、「怒りが原因の場合」を模索していきたいと思います。

 

☆心理の英語メモ☆
大切な人が困っていたら、「そばにいて助けてあげるからね」と優しい言葉をかけてあげたくなるものです。英語では “I will be there for you.” と表現します。
ご自身に対しても、“I will be there for you”という気持ちで接するように心掛けてみましょう。

 

長谷川由紀

www.yukihasegawa.org

 

☆おことわり☆

本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。