心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

“面倒くさい・後回しにしよう”の心理8<怒りが原因の場合:反応を変えよう>

前回の記事『面倒くさい・後回しにしよう”の心理7』では、脳内で繰り広げられる自己批判の声が「面倒くさい」という気持ちを増幅させる様子を解説しました。シリーズ最終回の今回は、この「自分を批判する」という反応を、やる気が出て、モチベーションが上がるような反応に付け替える方法をご案内します。再びDさんの事例(男性、会社員、35歳)を使って考えてみましょう。

 

Dさんは、タスクをこなしている最中、及び完了した後に、「こんな簡単なことをどうしてすぐできなかった!」「グズ!怠け者!」といった批判の声を自分自身にかけていることに気が付きました。この反応は、Dさんが小さい頃にお父さんの手伝いをしても褒められるどころかダメ出しをされた、という過去の経験とも共通点があります。もちろん、人間の人格は過去の経験や遺伝的・環境的要素など様々な影響で形成されているため、お父さんとの手伝いを巡る過去の経験だけで、Dさんの現在の反応が形成されたと断定することはできませんが、幼少期に家庭内で繰り返されてきた習慣は、大人になっても無意識のうちに繰り返してしまうことが多いのも事実です。そのため、過去の経験を振り返ることは無意識に脳内で繰り返しているパターンを知る上で有効だと考えられています。

 

さて、Dさんの自分自身に対する批判的な反応を、どうすればもっとやる気が出るような反応に付け替えられるでしょうか。事例をみてみましょう。

 

Dさんに、小さい頃のDさんご自身をイメージしていただきました。そして、もし現在のDさんがタイムスリップをして、お手伝いを頑張っている小さい頃のDさんに会えたら、どのように接したいですかと尋ねました。するとDさんは、
「『お手伝いしてえらいね!』『よくできたね!』『ありがとう』といった褒めの言葉や感謝の言葉をかけてあげたいです」とお答えになりました。
さらに、そういった言葉を受けて、小さい頃のDさんはどのように感じているかをイメージしてみてください、とお願いしました。
「おそらく、嬉しいという気持ちや自分を誇りに思う気持ちを感じていると思います」とDさん。
そして、これらの気持ちを感じているとき、どのような身体感覚がありますか、と尋ねました。
「胸の辺りがほわっと温かくなって、お腹の底からエネルギーが湧いてくる感じです」とDさんは描写されました。

 

こうした嬉しい、誇らしい、といった温かい気持ちをお手伝いの度に感じることができていれば、もしかすると、Dさんが現在抱えている「タスクが積み上がるとイライラする」という反応は出なかったか、もしくは程度が軽かったかもしれません。残念ながら、私たちに過去を変えることはできませんが、朗報なのは、無意識のうちに繰り返される自己批判といった負のパターンに気付き、意識的にそのパターンを変えていけば、私たちの感じ方・考え方・行動は何歳になってからでも変えられるということです。

 

Dさんにも、これからは積み上がったタスクをこなしているとき、また終えたときに、自己批判の代わりに自分を褒めたり、労いの言葉をかけるようにお願いしました。

 

何年、何十年も繰り返してきた無意識のパターンは根強いもので、すぐに変えられなくて当然です。Dさんも、自分を褒めることが難しく感じたり、ついつい自己批判をしてしまったり、自己批判をしている自分を批判したり…となかなかコツをつかめずにいる時期もありました。

 

しかし、長年の習慣を変えるには、根気強く、忍耐強く、そして優しい気持ちで自分自身と付き合っていくことが大切です。Dさんは、ついつい自己批判が出てくるときには、褒めの言葉や感謝の言葉をかけてもらえずに悲しかった小さい頃のDさんを思い出し、その小さいDさんの悲しい気持ちを癒やしてあげるように、自分自身に優しい言葉をかけるように心掛けました。

 

 

このように繰り返し実践をしいていくことで、Dさんは少しずつ後回しにする癖を克服していきました。嫌いだった作業は今も好きにはなれないし、面倒くさいことに変わりはありませんが、面倒くさいという気持ちにコントロールされたり、強いストレスを感じることが少なくなったといいます。

 

全8回『面倒くさい・後回しにしよう”の心理』では恐怖や怒りによって面倒くさいと感じてしまうケースをご紹介しました。実際には、面倒くさいと感じる状況・要因は人それぞれなので、恐怖や怒りだけでは説明できない場合も多々あると思いますが、本シリーズが後回しにしてしまう癖を乗り越え、人生をより楽しむためのヒントになればとても嬉しく思います。

 

次回のシリーズ『脳の構造は変えられる?』では、長年かけてできた考え方・感じ方の癖をどう変えていけばよいのか、脳神経科学も取り入れながら解説します。

 

長谷川由紀

www.yukihasegawa.org

 

☆おことわり☆

本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。

※ 本ブログの事例にて紹介されている人物や状況は、全て架空のものです。セッションを通して伺ったお話をブログにて公開することはありません。