心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

脳の構造は変えられる?1 <神経可塑性とは>

変わりたいのに変われない…
ネガティブ思考は生まれつきだから仕方ない…
うつ体質は治らない…
もう歳だし変わるには遅すぎる…

 

このように、自分は変われないと感じている方は想像以上に多いのではないでしょうか。また、「大人になると脳は変えられない。退化する一方...」とどこかで耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。

 

しかし、近年の神経科学における目覚ましい発展により、「脳は何歳になっても変化・発達できる」ということが分かってきました。この脳の柔軟性は「神経可塑性(しんけいかそせい)」(英語ではNeuroplasticity [ニューロプラスティシティ])と呼ばれています。これまで信じられてきた「脳は一定の年齢を過ぎると成長・発達を止め、あとは後退する一方」という通説は、この「神経可塑性」の発見により覆されつつあります。このため、米国の心理学会でも大変な注目を集め、セラピーやカウンセリングといった臨床の分野にも大きな影響を与えています。

 

自分は変われないと信じ込んできた方々にとって、脳が何歳になっても柔軟に変化し得るという発見は、大きな希望となるのではないでしょうか。本シリーズ「脳の構造は変えられる?」では、脳内活動の仕組みから、実際に脳の構造を変えるためのトレーニングまでご紹介したいと考えています。第一回目の今回は、脳の構造と神経可塑性の仕組みについて解説をいたします。

 

まずはじめに、「脳が変化・発達する」とはどういうことでしょうか。

 

私たちの脳には1000億個ほどのニューロンと呼ばれる神経細胞が存在し、そのニューロン間を結ぶ神経回路を介して信号を送ることで、動いたり、考えたり、感じたりすることができます。そして脳は、ニューロンや神経回路を生成・消滅させたり、既存のそれらを強めたり、弱めたりすることができるということが近年の研究によって分かってきました。このニューロンや神経回路の生成・消滅、強化・弱化という営み全般を指し、「脳の変化・発達」と本記事では呼ぶことにします。

 

では脳はどのような刺激によって発達・変化するのでしょうか。さまざまな要因が考えられますが、どのように考え・どのように感じるか、という日々の経験・脳内活動によっても引き起こされると考えられています。たとえば、物事をポジティブに捉える傾向にある人は、ポジティブに捉える神経回路が頻繁に使われることにより、その神経回路は強化され、形・大きさまで変化していくと推測されています。この過程は、筋肉の発達と似ているといえるでしょう。右利きの人は、右手を使う頻度が高いため、左手に比べて右手の筋力が強く、右手の方が太くなりがちです。同様に、よく使う神経回路はどんどん強化され、逆にあまり使われない神経回路は衰えていくのです。そして、私たちが筋トレによって特定の部位の筋力を強化できるのと同じように、強化したい神経回路を意識的にトレーニングし、発達させていくこともできると考えられています。

 

 

仏教に次のような言葉があります。

 

「考えから行動が生まれ、行動から習慣が生まれる。そして習慣から性格が発達し、性格から運命が決まっていく」

 

頭の中で繰り返される思考パターンによって私たちの世の中の見方は大きく影響を受けます。そしてその世の中の見方によって、私たちの言動は影響され、人間関係やキャリア、人生をどう生きるか、といったことが少しずつ形作られていきます。大切なことは、習慣化した思考パターンや人生への向き合い方は、心がけ次第で変えていくことができるということです。

 

…と、頭では分かっていても、自分にはできないのではないか...と気落ちされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。私自身、かつてそのように感じたことがあります。そんなときに、上記でご紹介した「心掛けによって脳の構造は何歳からでも変えることができる」という近年の神経科学における研究に大いに励まされました。自分の可能性を狭めたり、足かせとなるような思考パターンを現在お持ちの方でも、心がけ次第で、なりたい自分になり、生きたい人生を生きることもできるのです。

 

次回、『脳の構造は変えられる?2』では、習慣化した思考パターンがどのように私たちの生活に影響を及ぼし得るのか、その一例をご紹介します。

 

☆心理の英語メモ☆
神経可塑性を英語では “Neuroplasticiity” といいます。Neuro- は「神経」、plasticity は「可塑性・柔軟性」を意味します。Plastic(プラスティック)が自由自裁に形を変えることができることから、Plasticity という言葉が生まれました。私は Neuroplasticity という言葉を聞くと、私たちの脳・神経も心掛け次第で変えられる!という希望に満ちた明るい気持ちになります。

 

 

長谷川由紀

www.yukihasegawa.org

 

☆おことわり☆

本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。

※ 本ブログの事例にて紹介されている人物や状況は、全て架空のものです。セッションを通して伺ったお話をブログにて公開することはありません。