心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

日米のカウンセリング事情1<医療保険適用の有無>

日本でも近年メンタルヘルスやカウンセリングについて話題にされることが少しずつ増えてきたと思いますが、多くの人が気軽にカウンセラーに相談をするという習慣が根付くには、まだまだ乗り越えなければならない制度的・文化的障壁が残されていると感じています。そこで今回の記事では、カウンセリングが普及している米国と日本を比較することで、日本でカウンセリングを受診しやすくするにはどうすればよいかを考えてみたいと思います。

 

さて、カウンセリングを受けたことがない人にとって、それがどのようなものかイメージするのは難しいかもしれませんが、米国のドラマや映画で、個人やカップルがカウンセリングを受けるシーンをご覧になったことはないでしょうか。もちろん個人差はありますが、米国ではこうしたドラマや映画で描かれるように、カウンセリングは問題や悩みが生じときに気軽に利用できる身近な存在なのです。

 

この普及を支える要素の一つが、米国ではカウンセリングが医療保険でカバーされるということでしょう。

 

まず米国におけるカウンセリングの費用についてみていきましょう。相場は1セッションあたり大体$100〜$300(1ドル120円で計算した場合、12,000円〜36,000円)といわれています。料金設定はクリニックによって異なり、マンハッタンなどの物価の高い都市部では大体$250〜$300とされることが多いようです。

 

そしてカウンセリングの回数ですが、最近の研究では15〜20セッション程度で50%のクライアントさんに改善が見られ始めるという結果が報告されています。私の経験からすると、実際にはこれよりも長く通われる方が多いという印象です。ということは、継続期間が比較的短い場合でも$1,500〜$6,000(18万円〜72万円)程度かかるということになります。

 

この金額を全額自己負担するのは多くの人にとって容易ではないと思います。そこで重要なのが、保険でいくら控除されるかということです。

 

国民皆保険制度をとらない米国では、多くの方々が勤務先を通して民間医療保険に加入します。保険会社、保険プラン等によって補償内容が異なるため一般的なことはいえないのですが、私のクリニックで扱うことが多い保険を例にご紹介します。

 

この保険だと、「インネットワーク」と呼ばれる、保険会社と提携するカウンセラーのもとで受診した場合、自己負担額$10(1,200円)を支払えば、残りの料金は全て保険会社によって控除されます。また「アウト・オブ・ネットワーク」と呼ばれる、保険会社と提携していないカウンセラーのもとで受診する場合は、加入者がまず$1,000(12万円)を自己負担した後は、保険会社が料金の70%を負担する、という補償内容になっています。例えば1セッションあたり$250であった場合、クライアントさんは最初の4回を全額自己負担し、支払い総額が$1,000を超えたところで保険会社が70%カバーし始め、以降は1セッションあたりの自己負担額が3割負担の$75(9,000円)になります。そして、その後、年度内に支払い総額が$5,000(60万円)に達したところで、以降の費用は全て保健会社がカバーします。

 

このように、米国ではカウンセリングが医療保険によってカバーされることが多く、また費用を抑えられるインネットワークのカウンセラーを選ぶ、っといった選択肢があります。このためカウンセリングを気軽に利用しやすく、また効果が実感できるまでじっくりと継続することができます。

 

また、経済的負担を減らし、継続しやすい環境を整えることにより、カウンセラーがじっくりとクライアントさんのお話を伺えるので正確な診断がしやすくなる(誤診が減る)といったメリットも存在します。

 

一方、日本ではカウンセリングは基本的に医療保険が適用されません。一定の条件を満たすと保険対象となるようですが、実際にその条件を満たすのはごく一部のケースに限られるようです。また精神科医によるカウンセリングは保険対象となりますが、薬物治療が中心になることが多く、じっくりと話しを聞いてもらえる環境にはないようです。精神科での受診時間はわずか5〜10分程度になることが多いようです。

 

精神科での受診時間がこのように大変短くなってしまう背景には、日本の医療報酬制度が大きくかかわっています。つまるところ、5分診察しても、30分以上診察しても医療報酬が数百円程度しか変わらない、という事情があるため、診察時間を短くした方が経営効率が良い、ということになるようです。

 

この結果、日本で精神科を受診したことのあるクライアントさんから次のような声をよく耳にします。

 

  • 医師に理解してもらえた気がしない
  • 状況を詳しく説明できないので、その結果、医師からの診断に納得できない
  • 短い時間で状況を伝えなければと緊張して、うまく話せなくなってしまう...etc

 

日本でカウンセリングが普及しにくい理由には、このように保険制度・医療報酬制度の問題があるため、残念ながら一朝一夕に変えるのが難しい状況です。

 

しかし、先進国の中でも極めて自殺率が高い日本では、人々がより健康的に暮らしていくために、精神科やカウンセリングをより気軽に利用しやすい環境を整えることが大切です。このために、こうしたブログやその他の活動を通して今後も問題提起をしていきたいと考えています。

 

また、カウンセリングを受診できない環境にいらっしゃる方々に少しでもお役に立てればとの想いから、このブログにて様々な心理学の知識をご紹介しています。お一人で悩んでいらっしゃる方々の助けになれば幸いです。

 

長谷川由紀

 

☆おことわり☆

本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。

※ 本ブログの事例にて紹介されている人物や状況は、全て架空のものです。セッションを通して伺ったお話をブログにて公開することはありません。