心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

脳科学から理解しよう<闘争・逃避反応>

前回の記事では、私たちが理性を失ってしまうとき、その原因となる「闘争・逃避反応」について解説しました。今回は、なぜこの反応が起きるのか、脳のメカニズムからご説明します。(以下、分かりやすさのためにかなり簡素化している点をご了承ください。)

 

闘争・逃避反応が起きる際に重要な役割を果たすのが、扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる器官です。なぜ扁桃体という不思議な名前がついているのか。それは形が扁桃(アーモンドの和名)のような形をしているためです。この器官は、危険な状況に対する反射的な身体反応を司るといわれており、感情の中でも特にネガティブな感情である恐怖、不安、怒りといったものに強い関連があると推測されています。

 

私たちが不快な状態に置かれると、扁桃体は脳の他の器官にストレスホルモンを出すようにと指令を出します。そして、心拍数が上がる、発汗する、震えるといったような身体的反応が起きます。こうした反応は、闘うか逃げるかという危機的な状況を切り抜けるために、体を最適化させるという目的に伴い起きるものです。

 

同時に、危機を乗り切る上で重要でないとされる体の活動は一時的に低下します。たとえばその一つが消化機能です。危機を乗り切ってからあとでゆっくり消化すればよい、という非常に合理的な選択です。

 

脳の中でも同様に、緊急時に優先順位が低いとされる前頭前野と海馬の活動が低下するといわれています。前頭前野は感情をコントロールしたり、理性や社会性を保ったり、アイデアを出したり、といった、いわば人間を人間たらしめている重要な部分とされています。そして、海馬は記憶や学習を司る部分と考えられています。

 

前頭前野と海馬は私たちが人間らしく暮らす上では大変重要ですが、たとえば「山で熊に出くわした!」といった危険な状況では、すばやく逃げるか、恐怖心を忘れて闘う、といった動物的・反射的反応が大切になります。このため、扁桃体が危険と判断した際には、前頭前野や海馬の活動は抑制され、代わって、生き延びるための「闘争・逃避モード」に脳と体が切り替わるといわれています。

 

扁桃体が本当の生命の危機的状態にだけ反応してくれればよいのですが、安全な状況であるにもかかわらず強い不安や恐怖を感じたときに、「身の危険にさらされている!」と誤認識してしまうことがあります。すると「闘争・逃避反応」が起きて理性的な判断が難しくなり、パニックに陥ってしまったり、大泣きしてしまったり、激怒してしまったり、のちのち振り返ると「どうしてあんなことになったんだろう…?」と思うような言動をとってしまうことにつながるのです。そしてこうした我を失ってしまった経験をすると、「次にまたあんなふうになったらどうしよう…」と引き金となった状況をより一層恐れるようになり、さらに扁桃体が過剰反応しやすくなる、というスパイラルに陥ってしまうことがあります。

 

次回の記事では、扁桃体が過剰反応してしまった状態を言い表す、面白い英語表現をご紹介します。

 

 

長谷川由紀

 

☆おことわり☆

本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。また本ブログの事例にて紹介されている人物や状況は、全て架空のものです。セッションを通して伺ったお話をブログにて公開することはありません。