感情に支配されてしまい、理性的な思考や行動がとれなくなってしまう
そうした悩みをご相談いただくことがよくあります。気持ちを落ち着けて理性を取り戻すことは、仕事や学業、そして友達・家族・職場といったあらゆる人間関係において、とても重要なスキルです。しかし、場合によってはとても難しく感じられることもあるでしょう。そこで今回は、理性を失ってしまうとき、私たちの中で何が起きているのかを解説したいと思います。
感情的になってしまった後で、「なんであんな言動をとってしまったんだろう?」と不思議に思ったり、後悔した経験はないでしょうか。そうしたとき、私たちの中で、「闘争・逃避反応」(fight-or-flight response)と呼ばれる反応が起きている可能性があります。この反応は強いネガティブな感情、たとえば恐怖、不安、怒りなどを感じたときに生じることがあり、生き物が危機的な状況に直面した際に、戦うか逃げることによって生き延びるために備わった反射的反応だといわれています。
「闘争・逃避反応」は私たちが生命を維持する上で重要なものです。一方で、生命の危機に直面しているわけでもないに、私たちの脳はときおり必要以上に強く反応して「闘争・逃避反応」をとってしまい、生活に支障が出ることがあります。たとえば、次のような事例があてはまります。
・エレベーターに乗ったら急に不安になりパニック発作を起こしてしまった
・犬が怖く、道で遭遇すると震えが起きる
・プレゼンで頭が真っ白になって何を話したらいいか分からなくなった
・小さなことでものすごく怒ってしまった
・カッとなって人を殴ってしまった
強い感情を感じたとき冷静になることは簡単なことではありません。特に過去にトラウマがあったり、感情的な家庭で育った方にとっては、とても難しく感じられることがあります。こうした状況にあるクライアントさんからよく耳にするのが、
・自分をコントロールすることができないので自信が持てない
・目に見えない得体の知れないものに自分の体を乗っ取られてしまったような感じがして怖い
・次にまた同じ状況に置かれたとき、自分はどうなってしまうだろうと不安になる
といった自信喪失、不安、恐怖などです。
こうした悩みを抱えている方にとって、なぜ「闘争・逃避反応」が起きるのかを脳科学の視点から理解することで、少しの安心感が得られることがあります。たとえばパニック発作が起きている最中でも、「あ、あの反応が起きているんだな」と判断ができるようになり、「このまま死んでしまうのではないか?!」と不安が雪だるま式に膨らんでしまうスパイラルを止めることができるといったように、理性を取り戻しやすくなるためです。
そこで次回の記事では、「闘争・逃避反応」と深い関わりのある扁桃体についてご紹介します。
☆心理のひとくちメモ☆
Fight or flight response という言葉は1920年代に米国の生理学者ウォルター・キャノンの研究論文の中で初めて使われたといわれています。その後、この言葉は心理学の分野でも広く使われ、さらには日常会話でもごく自然に使われるようになりました。たとえば、
"I was at this party last night, and when I saw my ex walk in, I went into full fight or flight mode. Ended up just leaving before things got awkward."
(昨日パーティーに行ったのよ。そしてたら元彼もパーティーにやってきて、それを見た瞬間、私ったら闘争・逃避モードになっちゃったの。結局気まずくなる前に帰ることにしたわ)
といった具合に用いられます。
このように、米国では心理学の分野で使われる専門用語が、広く一般にも使われるようになる傾向があるように感じます。それだけ心理学が身近なものになっているということなのかもしれません。
長谷川由紀
☆おことわり☆
本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。
本ブログの事例にて紹介されている人物や状況は、全て架空のものです。セッションを通して伺ったお話をブログにて公開することはありません。