心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

浮気をされるとなぜ傷つく①<「記憶」と「現実」が乖離する>

前回の記事では浮気(不倫)が発覚したときの心理を解説しました。パニック状態になるほど心理的ダメージが強いというお話をしましたが、それではなぜそれほど深く傷つくのかを今回は紐解いてみたいと思います。

 

浮気をされたとき、人は何に深く傷つくのか。この問いに、ニューヨーク タイムズ誌に掲載された『最大の裏切り(Great Betrayals)』という記事の中で、米国の精神科医アンナ・フェルズ氏は次のように答えました。

 

「浮気(不倫)という新しい事実が発覚することによって、自分の過去対して抱いていた感覚がいつの間にか乱され、これまでつむいできた自分の歴史が信じられなくなることだろう

(Insidiously, the new information disrupts their sense of their own past, undermining the veracity of their personal history.)」

 

これは具体的にどういうことなのか、前回に続きA子さん(40代、会社員)の事例を使って考えてみましょう。

 

15年連れ添った夫、B男さんとその浮気相手の3年におよぶLINEのやりとりを見つけ、カップルカウンセリングにやってきたA子さん。事実を知りたいという思いから、そのやりとりをさかのぼって読んだといいます。

A子さん:「すごくショックでした。会社の飲み会で遅くなると嘘をついて浮気相手に会っていたことは数え切れないほどありました。私はすっかり騙されて、仕事で忙しい上に飲み会もあって夫が体を壊さないか心配していました。加えて、昨年行った旅行中にまでこまめにLINEをして「早く帰って会いたい」なんて送っていました。誕生日に連れて行ってもらったレストランも、プレゼントにもらったピアスも、浮気相手の誕生日に行ったレストラン、贈ったプレゼントと同じでした。私は自分たちのことを仲の良い夫婦だと信じていました。この15年という歳月でより強い信頼関係を築き、お互いの幸せを何よりも願う、良い夫婦になることができたと思っていました。そしてこれからも仲の良い夫婦として助け合い、一緒に年老いていくものとばかり思っていました。」
 

このようにB男さんの浮気発覚により、A子さんはこれまで二人で築いてきた夫婦の歴史が信じられなくなってしまったといいます。B男さんの帰りが遅い日、A子さんはB男さんは仕事の付き合いで飲みに行っていると信じていたけれど、現実はB男さんは浮気相手に会っていた…楽しい思い出を作ることができたと思っていた旅行中も、現実はB男さんの心は日本にいる浮気相手のことを考えていた…そして自分の誕生日を祝うために素敵なレストランとプレゼントを選んでくれたと信じていたけれど、現実は浮気相手の誕生日を祝うために選んだレストランとプレゼントを使いまわしただけだった…というように、A子さんのこれまでの「記憶」と「現実」の間に乖離が生まれることになります。


人間は自分の過去について一貫性のある解釈をしたがる生き物です。これまでの経験、記憶から自分とはこういう人間で、自分の人生はこういうものだと解釈して一貫性のある物語を作り、そしてその物語に基づいてこれからの自分という人間、自分の人生を予測しようとします。しかし、浮気が発覚することによって、これまでの自分がつむいできた物語が信じられなくなります。


アンナ・フェルズ氏は、パートナーに浮気をされた多くの人が「一番傷つくのは、浮気をされたことではなく、嘘をつかれたことだ」と訴えるのは、このためだといいます。パートナーが他の誰かと肉体関係を持ったということよりも、自分の物語が打ち砕かれることの方が心理的ダメージが大きいというのです。


最も大切なパートナーから、自分が大切につむいできた人生という物語の一貫性、解釈を奪われてしまうというのは、とても苦しいことです。そしてこの状態にあるときは、浮気が発覚したという事実も含めて物語を再構築していくこと、それもポジティブな物語をつむいでいくことなど、とても無理と思えるかもしれません。しかし、こうした状況についてご相談くださった多くのクライアントさんたちが苦しみから立ち上がり、そこから力強く、美しい物語を更新していく様子を見せてくださり、その姿から決して不可能なことではないということを教えていただきました。


カウンセリングにおいて、ご自身やこれまでの人生について一貫性のある解釈を与える、というのは大切なプロセスと考えられています。現在、自分の物語の再構築が難しいと感じている方は、カウンセラーに相談してみるとよいかもしれません。

 

長谷川由紀

 

☆おことわり☆

本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。また本ブログの事例にて紹介されている人物や状況は、全て架空のものです。セッションを通して伺ったお話をブログにて公開することはありません。