お子様がいらっしゃるクライアントさんから、パートナーの不倫を子供に伝えるか否か、というご相談を受けることがあります。難しい問題であり、何が正しいかをひとくくりにここで論じることはできません。しかし、親の不倫を知らされたという経験を持つ子供が大人になり、その心の傷を抱えてカウンセリングを受診するというケースをこれまでたくさん目にしてきました。そのため、今回の記事では、子供に伝えるか否かを決める際の判断材料として、子供にどのような影響が考えられるかをご紹介したいと思います。
まず、前々回のブログ記事『浮気をされるとなぜ傷つく①<「記憶」と「現実」が乖離する>』でパートナーの浮気・不倫が発覚すると自分の記憶の信憑性・一貫性が失われると感じるというお話しをしました。このように感じてしまうのは、親の不倫を知らされた子供も同じです。
10歳の頃に父親の不倫について母親から知らされたC子さん(30代)の事例を使って考えてみましょう。
「パパはずっと前から浮気してたのよ!」
とある日突然告げられたC子さん。それまで両親は愛し合っているものと信じていたC子さんにとっては驚きでした。また、父親にとって家族は何よりも大切なものだと信じていたので、父親が自ら家族を崩壊させるような行動をとっていたことが信じられず、大きなショックを受けました。
それ以降、家族との楽しかった記憶を思い出しては、「あの時もパパは他の女の人と会っていたんだ…」と悲しい気持ちになり、楽しかったはずの思い出によって逆に胸を痛めるようになってしまったといいます。
C子さんのように、不倫について知らされた子供は、これまで当然のものと考えていた家族というまとまりが実は崩壊の危機にあり、将来存続するか分からない、という恐怖・不安感を抱きます。そして、親にとって家族、そして子供は最も大切な存在、と考えていたのが、実はそうではなかった、他により大切な存在がいるらしい、とショックを受けるものです。加えて、楽しかった家族の記憶を純粋に楽しむことができなくなることもあるようです。
また、不倫の理由についても子供はさまざまな考えを持つものです。その中でよく耳にするのが、「自分がもっと良い子だったら、親は不倫に走らずにすんだのではないか」というものです。再びC子さんの事例を使って考えてみましょう。
「私がもっとパパっ子だったら、不倫なんかしなかったんじゃないか」
母親との距離が近く、父親と話たり遊んだりする時間が少なかったC子さんは、自分が父親をもっと慕い、もっと可愛がられる存在であれば、不倫を思い止まってくれたのではないか、と考えたそうです。
実際は、不倫の原因は夫婦間の問題や個人が抱える問題が原因のものがほとんどですが、子供は親や家族に起きたことを自分の問題として捉える傾向があります。それは子供にとって親の欠点を受け入れるよりも自分を責めた方が楽であり、また自分には防ぎようがなかったと考えるよりも、自分に問題があり努力・改善することで未然に防げるようになると考える方が安心感が得られるためといわれています。
C子さんのような経験をされたクライアントさんたちからは、以下のような悩みをよく耳にします。
・どうせ遅かれ早かれ浮気をされるだろうと想定しているため、パートナーとの関係がうまくいかないときに関係改善に向けて努力するより、すぐに別れようとしてしまう
・不倫をした方の親を極度に憎んでしまい良好な関係が築けない
・不倫をされた方の親をかわいそうな被害者としてみるようになることで、その親を守ること、幸せにすることが人生の目標になってしまう(自分の人生を生きられない)
・幸せを感じたとき、その幸せがいつか簡単に壊れてしまうという気がして怖くなる
etc
親の不倫を知らされた子供は大きなショックを受け、その影響は成長してからも続くものです。そうした影響を理解した上で子供に伝えるという判断をした場合、なぜ伝えるのかという動機を考えましょう。もしそれが子供のためではなく自分自身の傷ついた気持ちを分かってもらいたい、吐き出したいという動機なら、子供を傷つけるだけなので控えた方がよいでしょう。
そして伝えた場合には、パートナーとの結婚を続ける場合でも離婚をする場合でも、苦しい状態から立ち直り、再び幸せに生きていく姿をみせてあげましょう。逆に、恨み辛みを抱え続け、それを子供に愚痴りながら生きた場合、子供にとって大きな心理的負担となります。
今回は親の不倫を子供に伝えるかについてご紹介しました。現在この問題に直面していらっしゃる方にとって少しでも参考になれば幸いです。
長谷川由紀
☆おことわり☆
本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。また本ブログの事例にて紹介されている人物や状況は、全て架空のものです。セッションを通して伺ったお話をブログにて公開することはありません。