心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

“語ることができれば、全ての悲しみは耐えられる”

前回の記事では、浮気(不倫)が発覚したときに傷つく理由の一つは、これまでつむいできた自分の歴史・物語の一貫性・信憑性が失われるためである、というお話しをしました。今回の記事では少し横道にそれますが、人間にとって語ること、物語を作ることの大切さについて考えてみたいと思います。

 

語ることについて、私のお気に入りの言葉を紹介します。

 

全ての悲しみは、その悲しみをある物語の一部としてみることができさえすれば、もしくはその悲しみをある物語として語ることができさえすれば、耐えることができる。
by イサク(アイザック)・ディーネセン

 

“All sorrows can be borne if you put them in a story or tell a story about them.”
By Isak Dinesen

 

これはイサク(アイザック)・ディーネセンというデンマークの女性作家が『アウト・オブ・アフリカ』という彼女の代表作の中に記した言葉です。直訳により少し分かりにくくなってしまったので、

 

語ることができれば、全ての悲しみは耐えられる

 

と意訳させていただきます。この言葉と出会ったとき、私はなるほどなあ、と自分自身のことや、これまで出会ったクライアントさんとのことを想いました。

 

これまで、胸が押し潰されてしまいそうなほど辛い経験をしたとき、誰かに話したり、日記に書くことによって少し心が落ち着いた、という経験をされたことはないでしょうか。

 

カウンセリングのセッションでは、しばしばクライアントさんから「これは墓場まで持っていく秘密と思っていたのですが…」とこれまで誰にも話したことのない過去についてお話しいただくことがあります。そして打ち明けられた後、胸のつかえがとれたり、蓋をしていた感情が解放されて涙を流すことで、「すっきりした」「ほっとした」と感じられるようです。

 

 

一方で、過去を語ることに辛さや羞恥心を感じ、他人に語らないだけではなく自分自身でも向き合わないように努めている場合、何年経っても傷がくすぶり続ける印象を受けます。

 

ご自身の辛い経験や失敗談をオープンに話せる方もいらっしゃいますが、話したことで批判されたり、恥ずかしい想いをさせられてしまったという経験をお持ちの方は、ご自身について話すことを恐る傾向があるものです。家族や友人といった身近な人に話すことが難しい場合には、カウンセラーに相談したり、日記に書いてみるとよいかもしれません。

 

 

☆ひとくちメモ☆

 

アイザック・ディーネセン(1885-1962年)は、デンマークの作家であり、『アウト・オブ・アフリカ』という、アフリカでの彼女の経験を描いた自伝的作品で最もよく知られています。同作は映画化もされており(邦題『愛と哀しみの果て』)、アカデミー賞とゴールデングローブ賞を受賞しています。