心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

脳の構造は変えられる?4 <幸せはトレーニングで体得できる⁉>

『脳の構造は変えられる?3』では、脳が幸・不幸に反応する仕組みと、「幸福の既定値」という概念をご紹介しました。今回は、「幸福の既定値」は変えられることを示唆する近年の研究についてご紹介します。

 

この研究は、前回の記事でも登場したリチャード・デイビッドソン教授、及びマインドフルネスの普及に貢献したことで日本でも有名なジョン・カバット・ジン教授(Jon Kabat-Zinn、マサチューセッツ大学医学大学院教授)他によって実施されました。実験では、バイオテクノロジー系企業の社員たちに8週間にわたるメディテーション(瞑想)のトレーニングを実施し、実験前後で右・左前頭葉の活動比率がどのように異なるかを比較しました(右前頭葉の活動が左前頭葉よりも活発な場合はネガティブな感情を恒常的に感じやすく、左前頭葉の活動が優勢の場合にはポジティブな感情を恒常的に感じやすいという研究結果については前々回の記事でご紹介しました。詳しくは『脳の構造は変えられる?2』をご覧ください)。この結果、メディテーション・トレーニングを受けた社員たちの脳では左前頭葉(ポジティブな感情を司る部位)の活動が大幅に活発になり、かつ免疫力も向上した、という結果が得られました。

 

『脳の構造は変えられる?1』でご紹介した通り、「習慣化した思考パターンはそれに対応する神経回路を強化する」と考えられています。上記の実験では、メディテーションを通して、不安やうつを引き起こすようなネガティブな思考パターンを弱め、逆に幸福感につながるポジティブな思考パターンを強めることにより、被験者たちの幸福感が増したことが示唆されました。この実験結果は、誰でも、そう長くない期間で、遺伝的要素や経験によって培われた幸福度を向上させることができるという希望を多くの人々に与え、米国で現在も大変な注目を集めています。

 

また、この他にもリチャード・デイビッドソン博士の実験には興味深いものがあります。博士は、長年にわたりメディテーションを行っている仏教僧の脳内活動を測定しました。すると、左前頭葉の活動が右前頭葉に比べて極端に活発である、という結果が得られたのです。この実験は、この僧侶がメディテーションをするようになる以前と以降を比較したものではないので、僧侶がたまたま左前頭葉が生まれつき活発で、幸せを感じやすい体質だったという可能性は捨て切れません。しかし、前述の、バイオテクノロジー系企業の社員たちを対象とした実験と共に、メディテーションにより左前頭葉の活動が強化されたことを示唆する事例として、この実験も注目を集めました。

上記2つの実験は脳の構造を変える方法としていずれもメディテーションを用いています。メディテーションには様々な方法がありますが、いずれの方法でも共通しているのは「浮かんでくる考えや感情をありのまま認識する・受け入れる」、「考えや感情に即座に反応しない(たとえば批判等を加えない)」、「自分自身に好奇心と優しさを持つ」といった点です。こうした自分の考えや感情に対する好奇心を持つことは、私たちの中で習慣化している考え方・感じ方に気が付き、必要であれば修正する機会を与えてくれます。つまり、「気付くこと」「修正すること」ができれば、メディテーション以外の方法でも脳をポジティブに転じることは可能なのではないかと私は考えています。

 

メディテーションは心身の健康に良いということが様々な研究で実証されつつあります。しかし、メディテーションに苦手意識を持っている人も少なからずいらっしゃると思います。そこで、次回『脳の構造は変えられる?5』以降は、メディテーション以外の方法で、手軽に簡単にできる脳の構造を変えるトレーニング方法をご紹介します。