心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

脳の構造は変えられる?5 < “ありがたい” に気付く>

 『脳の構造は変えられる?4』では、メディテーションにより左前頭葉(ポジティブな感情を司る部位)の活動が活発になり、日々の幸福感が向上すること実証した実験をご紹介いたしました。メディテーションについては現在日本でも書籍やインターネット上で多くの情報が得られるので、今回はメディテーション以外の方法で、幸せを感じやすい脳に変えていくための手軽なトレーニング方法をご紹介したいと思います。

 

まずはじめにご紹介したいのが、毎日の「 “ありがたい” に気付く」というトレーニングです。私はここで“ありがたい” という言葉を、「幸せだな」「嬉しいな」「楽しいな」「よかった」「心地よい」「安心した」etc といったほっこりとしたポジティブな感情を与えてくれるもの全般を指して使っています。毎日一日の終わりに、5〜10分程度の時間をとって、その日あった “ありがたいこと” を3つ挙げてみましょう。 “ありがたいこと” は大きいことでも小さいことでもかまいません。良い一日だった、と自然と感じられる日には簡単に感じられるでしょう。逆に、今日は嫌な一日だった...という日には3つ挙げるのはなかなか難しいかもしれません。しかし、少し視点を変えて一日を眺めてみると、たとえ嫌な一日だったとしても少しも “ありがたいこと” が見つからない日というのはほとんどないのではないかと私は考えています。

 

『脳の構造は変えられる?2』でもご紹介した、長年うつ病と不安症に苦しんできたEさん(35歳・女性・会社員)にも“ありがたい” に気付くトレーニングをしてもらいました。

 

ご本人いわく「大変なネガティブ思考」なEさんは、一日の終わりに “ありがたいこと” を3つ挙げるのが難しい状態でした。そこで、Eさんが日々の暮らしの中でついつい当然と思ってしまいありがたさを忘れがちなものを一緒に探しました。

まず、飼い犬について。
「以前、飼い犬が体調を崩したときにはとても不安で強いストレスを感じました。今日、この子が元気にごはんを食べて、お散歩をしていることにとても幸せを感じます」

次に、通勤途中でのこと。
「緑の多い公園の横を通ったとき、風がとても爽やかな香りで思わず深呼吸をしました。とても清々しい瞬間でした」

最後に、仕事の休憩時間にコンビニに行ったときのこと。
「店員さんが、目を見てにこやかに “ありがとうございました” と言ってくれました。心がほっこりして、私も笑顔で会釈しました」

 

Eさんにとって、その日は決して楽しい一日ではなかったそうですが、それでも「ありがたいものを探してみよう」と意識することによって、実は周りにありがたいことがあることに気が付くことができました。少し視点を変えてみると私たちの毎日には「うれしい」「幸せ」「心地よい」と感じられる瞬間が意外と多くちりばめられているものです。

 

生きていると、不愉快なことや悲しいこと、辛いことに遭遇してしまうことは避けられません。そのような辛いことの真っ只中でも、悲しみや怒りに暮れるのではなく、少しでも “ありがたい” と感じられる瞬間を見いだせるように心がけてみましょう。『脳の構造は変えられる?1』で「神経可塑性」についてご紹介した際に述べたように、頻繁に使われる神経回路は強化されていきます。このため、意識的にポジティブな物の見方をすることによって、ポジティブな思考に用いる神経回路が強化され、心の健康・バランスを保つことにつながると私は考えています。

 

次回、『脳の構造は変えられる?6』では、幸福を感じやすくするトレーニングの2つ目として「ポジティブな感情をじっくり味わう」方法をご紹介します。

 

☆心理のひとくちメモ☆
今回ご紹介したトレーニングはマーティン・セリグマン博士(ペンシルベニア大学教授)によって発案されました。博士によって実施された2005年の実験では、このトレーニングを1週間続けた被験者たちの幸福度が、その後半年間にわたって向上したという結果が得られています。

 

長谷川由紀

 

www.yukihasegawa.org

 

☆おことわり☆

本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。

※ 本ブログの事例にて紹介されている人物や状況は、全て架空のものです。セッションを通して伺ったお話をブログにて公開することはありません。