心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

感情に振り回されない方法<気持ちを言葉にする>

前3回にわたって、脳の中にある小さなアーモンド型の扁桃体が活発になると、感情に振り回されてしまうことがあるというお話をしました。今回は、感情的になってしまったときにどうやって気持ちを落ち着け、理性を取り戻すことができるか、簡単にできる方法をご紹介します。

 

その方法は、感じている気持ちを言葉にする、という非常にシンプルなことです。たとえば、エレベーターに乗るとパニック発作が起きてしまう人にとって、これからエレベーターに乗らなければならない、という場面を想像しただけでも不安や恐怖を感じるでしょう。そのときに、「いま私は不安(恐怖)を感じている」と感情を言葉にするだけでよいのです。

 

ずいぶん前から、気持ちを話したり、日記に書いたりすることは、心を落ち着けることに役立つといわれてきましたが、そのメカニズムは分かっていませんでした。しかし、fMRIという脳のどの部分が活動しているのかを調べる装置の登場により、少しずついろいろなことがわかり始めています。

 

UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)がfMRIを使って言語と扁桃体のかかわりを調べたところ、感情を言葉で表現すると扁桃体の活動が減り、代わって前頭前野(言語機能や理性や社会性といった人間らしい機能を担うと考えられている部分)が活発になるという結果が得られました。つまりこの研究結果から、言葉(前頭前野が司る部分)を使うことで扁桃体を落ち着けることができ、その結果「闘争・逃避反応」(もしくは「扁桃体ハイジャック」)の状態から抜け出しやすくなるのではないか、と推測されるようになりました。これは、「闘争・逃避反応」(扁桃体ハイジャック)が起きる経路(ネガティブな感情→扁桃体の活動上昇→前頭前野の活動低下→闘争・逃避反応)の逆をいくイメージです。(詳しくは『脳科学から理解しよう<闘争・逃避反応>』をご参照ください。)

 

このように感情を言葉にすることを英語で「Affect Labeling(感情にラベルを貼る)」と呼びます。

 

 

自分が感じている感情を察知すること、そしてそれが何なのかを表現することは簡単そうでいて難しいことです。私のカウンセリングセッションでは「今どのような感情を感じていますか?」と尋ねることがよくあります。普段感情をこれほどストレートに聞かれることは日常生活であまりないことなので、困惑される方もいれば、「分からない」とお答えになる方も多いです。しかし、こうして「今何を感じているだろう?」と考え、その感情にラベルを貼る練習をすることで、感情表現がより豊かに、上手になっていくことが期待できます。

 

感情にラベルを貼って表現することは、学校や職場、家庭などさまざまな場所でよい人間関係を築く上で大切になります。そして感情にラベルを貼るのが上手いか下手かということは個性や資質というよりも、練習によりどんどん上達することができる「スキル」だと私は考えています。またこのスキルは小さい子供でも身につけることができます。これから日本でもこうした感情についての教育が広まり、幼いときから上手に気持ちを整理して、よりよい人間関係、より豊かな人生を築いていく助けになればよいと考えています。

 

次回は感情にラベルを貼るというスキルについて、私が暮らした米国ニューヨークとシンガポールで感じたことをお話しします。

 

*学校や職場での感情表現についてワークショップを提供しております。ご検討の方は、こちらよりご連絡ください。

 

 

長谷川由紀

 

☆おことわり☆

本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。また本ブログの事例にて紹介されている人物や状況は、全て架空のものです。セッションを通して伺ったお話をブログにて公開することはありません。