心理カウンセラー 長谷川由紀のブログ

米国ニューヨーク州公認の心理カウンセラーが心について解説します

“面倒くさい・後回しにしよう”の心理 3 <“恐怖”と“面倒くさい”の関係>

『“面倒くさい・後回しにしよう”の心理2』では、後回しにしてしまう行動の背景にある過去の経験および感情を深く理解する方法についてご紹介いたしました。今回は、過去の経験がどのように現状と結びつき、「面倒くさい」という気持ちを起こすのか、そのメカニズムについて考察します。

 

再びBさんの事例を使って考えてみましょう。前回の記事の中で、Bさんは「大切な誰か」(本事例では愛娘Cちゃん)に置き換えて自分の経験を再検討することで、「○○高校に進学できなかったらお母さんに人格否定される」という恐怖がいかに辛いものかということを認識しました。

 

○○ができないと親にがっかりされる、否定・罵倒される、というプレッシャーは、子供に強い恐怖心を植え付けます。そうした経験が繰り返されると、自分の価値は何が達成できるかによって測られると感じるようになり、成功し続けなければならないという強迫観念を抱くようになってしまう可能性があります。ではこの恐怖心や強迫観念がどのようにして「面倒くさい・後回しにしよう」の心理に結びつくのかをみてみましょう。

 

お母さんに人格否定をされる恐怖をビジネススクールを受験するという現状と結びつけて理解するために、Bさんに次のように質問をしました。

「もし仮に、受験したどのビジネススクールからも合格がもらえなかったら、Bさんにどんなことが起きると想像されますか?」

Bさんは深刻そうな表情で次のようにお答えになりました。

「もし大学院に落ちたら、上司や同僚にダメなやつだと思われ、それに加えて妻にまでどうしようもない夫だと見放され、娘にも格好の悪い父親と思われるのではないかと想像し、怖くなります」

この対話から、Bさんが中学生当時に感じた「お母さんに人格否定される」という恐怖が、現在は「上司・同僚・妻に嫌われる・見放される」という恐怖に形を変えて現れているようだということが見えてきました。

 

何かに失敗したら、職場の人や最愛の人から嫌われてしまうという恐怖は、失敗してしまうことそのものより、はるかに大きな不安・恐怖を与えることでしょう。このために、Bさんはビジネススクールに向けて受験勉強しようとすると強い恐怖を感じ、「逃げ出したい・物事を直視したくない→面倒くさい・後回しにしよう」という反応が出ていたのではないかと推測できます。

 

今回は、Bさんの事例を通して、「何かにチャレンジする→失敗するかもしれない→愛する人に見捨てられる」という思考・感情プロセスを考察することで、「愛する人に見捨てられる」恐怖が強すぎるために、「面倒くさい・後回しにしよう」という反応が出るということを理解しました。

 

孫子の兵法に出てくる有名な一節に「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という言葉があります。心理の分野でも同じことが言えます。後回しにする癖を克服するには、その心理的背景を理解し、自分にどんな思考・心理パターンがあるのかを観察する必要があります。それさえできればまさに「百戦危うからず」です。

 

次回『“面倒くさい・後回しにしよう”の心理4 』では、対処方法の第二ステップの「恐怖に向き合う」を解説いたします。

 

☆心理の英語メモ☆
「絶望感」という意味で一般的によく使われるのが “hopelessness” という単語です。「私は絶望しています」は “I feel hopeless” と表現します。

 

長谷川由紀

www.yukihasegawa.org

 

☆おことわり☆

本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。